学会について・沿革

学会について・沿革

一般社団法人 日本免疫治療学会 設立趣意書

現在のがん治療は、三大治療といわれる外科療法、放射線療法、化学療法を中心に大きく発展を遂げている。しかし、進行がんの場合は根治が難しく、また、治療の副作用を被ることにより、必ずしも患者の利益につながらない場合があることが指摘されている。このような現状の中で、真に患者の利益となる新たな治療法の確立が期待されている。  
近年の基礎免疫学の進歩は、腫瘍や病原微生物に対する生体の免疫応答機構を飛躍的に解明し、各種疾患に対する免疫療法の新しい発展の大きな可能性を開いている。またバイオテクノロジーの発展は、細胞医療という新しい視点に立った治療法を成立させた。

がんに対しては、細胞医療の一分野である免疫細胞治療はその有効性が報告され、厚生労働省の承認の下、先進医療あるいは高度医療としても行われている。また、ウィルス感染症に対する有効性についても検討されている。免疫細胞治療は、真に患者の利益となるがん治療の一つとして広く普及すべきであり、また今後の改良による大きな進歩の可能性をもった治療法である。また、従来の三大治療法などと積極的な併用が可能で、根治手術後の再発率を減少させるも報告されており、大いに研究が推進されるべきである。

しかしながら、がん医療の現状は、免疫細胞治療が、がん治療法の一つとして標準化されるには程遠い状況であるといえる。この背景には、医療界での本療法に対する理解の不足、実際に本療法を行うにあたっての人的・技術的・経済的な制約、現状の医療システム中での社会的な制約などが存在している。これらの点をふまえて、がん、感染症、その他の難治性疾患に対する治療法として、免疫細胞治療の健全な育成と普及を目指すべきであると考える。そのためには免疫細胞治療に関する学術活動・情報発信、臨床応用を主眼とした基礎研究の促進、一定の品質、安全確保のための細胞培養士・細胞培養施設の認定、および医療行政に対する提言などを行っていくことが不可欠である。

上記の目的を達成するために、このような行動の母体となる学術団体として、一般社団法人日本免疫治療学会をここに設立するものである。

沿革

本会の前身である日本免疫治療学研究会は2003年4月に故江川滉二東京大学名誉教授により設立された。2009年8月に江川会長が急逝され、2011年9月に一般社団法人として認可されたのを機に、安元公正産業医科大学名誉教授が2019年2月までの長きに渡り理事長を務めた。その間、免疫細胞療法細胞培養ガイドライン策定(2013年11月)、がん免疫細胞療法用臨床試験ガイダンス策定(2014年5月)等、安元理事長の強いリーダーシップのもと様々な活動が実行され、その成果として、2018年1月に日本学術会議により学術会議協力学術研究団体に指定された後、4月には日本免疫治療学会へと昇格した。

その後、2019年2月に安元理事長の退任および名誉理事長への就任に伴い、副理事長であった国立がん研究センター免疫療法開発分野の中面哲也分野長が新理事長に就任し、現在に至る。

年1回開催している学術集会では、研究会時代はがんの免疫細胞治療に重点を置いたテーマとしていたが、学会になるにあたって抗体療法等も免疫治療の一環として取り扱い、対象疾患もリウマチ、膠原病、喘息等の自己免疫疾患や臓器移植等に枠が広げられた。また、中面理事長主催による次世代リーダー育成プログラムは免疫治療学発展のための若手リーダー育成を目的として企画された。毎年、その年の学術集会ポスター発表者数名がプレゼンを行い、理事・運営委員とのディスカッションを通じて将来のリーダー候補が育成されている。